Retail / Store

小売・店舗の
ロボット導入

小売は、国の「AIロボティクス戦略」が実装を目指す18分野のひとつです[2]。国内595件の導入・実証を分析したレポートでも、小売の実運用比率は59.4%[5]。ただし店舗で実際に回っているのは運ぶ・見回る・案内するで、品出しやレジ会計はまだです。その線引きを作業ごとに書きます。

搬送は実運用段階 レンタルの実額を公開 できない作業も明記
まず結論

店舗のロボットは、いま「運ぶ・見回る・案内する」が実用圏です。

バックヤード・館内の商品搬送は◎実用夜間の棚卸し・在庫点検と受付・案内は○条件付き。一方で品出し・陳列は△研究段階レジ・会計の代行は×でセルフレジ等の領域です。可否を決めるのは機種ではなく、営業時間・通路幅・お客様動線の3つ。ここが整理できていれば、1店舗から始められます。

01 / Working now

店舗の現場で、いま実際に動いている作業

能力DBで小売に◎(実用)が付くのはバックヤード・館内の商品搬送ひとつ。条件は「平坦床・経路設定」です。検収場からバックヤード、そこから売場へ決まった経路をAMRが往復し、人は接客と補充の判断に残ります。

なぜここだけ先に実用化したのかは統計を見るとはっきりします。Listerのレポートは実装が先行する条件を「定型・反復・閉鎖環境の業務」と結論づけていて[5]、店舗の搬送はその3つを満たします。

国内595件の導入・実証事例のうち実運用段階は308件(51.8%)[5]。形態で見ると、話題性のある機体ほど実運用比率は低くなります。
切り口対象実運用比率
業界別小売59.4%
業界別物流・倉庫 / 製造71.4% / 67.0%
業務別搬送(90件)73.3%
業務別設備点検(89件)37.1%
形態別無人フォークリフト83.3%
形態別ヒューマノイド / 四足歩行16.7% / 11.1%

読み方はひとつです。「歩ける」「人型である」ことと、毎日の店舗業務で稼げることは別。検討は機体の見た目ではなく作業の性質から入ってください。

02 / Conditional

条件付きでできる作業(○)

夜間の棚卸し・在庫点検(四足ロボット)

能力DBの条件は「通路幅・タグ整備が前提」。店舗で具体化すると、棚間の最狭部の幅、棚番地の付番ルール、タグやラベルの整備状況、閉店後の施錠と警備会社との取り決め、充電場所の5点です。タグが整っていない店舗では棚卸し自体が成立しません。機体より先に、棚の情報を整えるほうが順序です。

受付・案内・呼び込み(小型コミュニケーションロボ)

条件は「騒音下は精度低下」。BGMと人の声が重なる売場では音声認識が落ちます。案内の精度と、話題づくりの効果を分けて評価するのが実務的です。集客・PRが目的なら効果は出ますが、案内係の置き換えとして期待すると外れます。

○は「条件を満たせば動く」であって「だいたい動く」ではありません。条件のうち1つでも欠ければ○は実質×になります。条件を満たすための什器移動や棚ラベル整備の費用まで含めて、投資対効果を出してください。

03 / Not yet

まだできない・期待してはいけない作業

品出し・陳列(△ 研究段階)

店舗の自動化でいちばん期待され、いちばん外れるのがここです。同じ棚に袋物・箱物・瓶・惣菜パックが並びます。潰れる物を下に置かない、フェイスを揃える、先入れ先出しを守る、値札と現物を合わせる——人が無意識にやっている判断が多すぎます。技術的にも初めて見る物体をどこで掴めば落ちないかを推定する汎用解がまだありません。定型・単品の補充なら一部可能ですが、それは「品出しの自動化」とは別物です。

レジ・会計の代行(× 今はできない)

アームでレジを打つ構成は現実的ではありません。会計の省人化はセルフレジ・スマート決済という別系統の技術の領域です。混同した提案が来たら、作業単位に分解して実現度を確かめてください。

「店員をロボットに」ではなく「店員の移動と見回りをロボットに」。搬送・棚卸し・案内で人手を空け、接客という人にしかできない仕事に寄せる——それが小売での現実的な設計です。

04 / Capability Matrix

作業×実現度の一覧(小売・店舗)

能力DBの小売・店舗の全行です。◎実用/○条件付き可/△研究段階/×今はできない。

フィジャーズ能力DB(2026-09-15時点)。実現度は現場条件・時点で変わります。
作業機種実現度条件手配
バックヤード・館内の商品搬送搬送AMR◎ 実用平坦床・経路設定弊社手配
夜間の棚卸し・在庫点検四足 / Unitree Go2○ 条件付通路幅・タグ整備が前提開拓中
受付・案内・呼び込み小型コミュニケーションロボ○ 条件付騒音下は精度低下・話題性開拓中
品出し・陳列アーム + AI△ 研究段階多品種の陳列は未成熟開拓中
レジ・会計の代行× 不可セルフレジ等の領域

全業種の一覧はできる/できない一覧へ。近い条件の現場は物流・倉庫飲食もご覧ください。

05 / Government policy

政府方針との接点(18分野に小売)

国は令和8年3月26日決定の「AIロボティクス戦略」で、社会実装の対象として18分野を掲げました。含まれるのは製造業、造船、物流、建設・土木、建築、インフラ保守、小売、宿泊業、飲食・食品製造、医療、介護、警備業、農業、林業、廃棄物処理業、災害対応、警察活動、防衛の18分野です[2]。

注目すべきは、同戦略が「AIロボティクスにより、導入が難しかった物流、建設、小売、介護、災害対応等へと市場が拡大する見込み」と、小売を名指しで「これまで難しかった側」に置いていることです[2]。裏を返せば、店舗はいまが立ち上がりの時期で、成熟した製品が並ぶ分野ではありません。戦略は「2040年までに1,000万台規模のAIロボットを国内導入」「2040年に60兆円規模の市場規模のうち20兆円規模を獲得」という目標も掲げています[2]。

令和8年7月14日閣議決定の人工知能基本計画も「特にバーティカルAI及びフィジカルAIを行政及び産業の現場に能動的に導入する」とし、地域AXの推進のためにデジタル化・AI導入補助金などで後押しすると書いています[1]。制度は整いつつあり、店舗側は「どの作業から出すか」を決める段階です。

06 / Categories

小売に向いている機種と代表機種

店舗で選ぶときの分かれ目

POSや在庫システムと繋ぐ予定があるかで機種が変わります。Unitree Go2はAirとProで二次開発(プログラム制御)ができません。棚卸しの結果を自社システムに取り込む、決まったルートを自動巡回させるならX以上が必要です。Unitree G1も同じで、通常版(Basic)は二次開発不可、SDKから制御するならR&D版です。

もうひとつは「誰が動かすか」。G1は機体だけ借りても、操作できる人が社内にいなければ動きません。確実に動かしたい日はエンジニア同伴のデモ貸出のほうが結果的に安く済みます。選ぶ順序は選び方、機種一覧は機種から探すへ。

07 / Cost & Subsidy

費用の目安と使える補助金

供給元の価格表・実見積で確認できている実額だけを載せます。搬送AMRは台数・経路・システム連携で変わるため要見積です。

販売は2025年10月6日改定の価格表、レンタルは2026年6〜7月時点の供給元提示額にもとづく下限の目安です。機体のみプランの場合、別途おおむね梱包配送・保険・設置レクチャーが各30,000円。在庫は非公開・都度確認。
機種・プラン価格(税別)備考
Unitree G1 通常版/1泊2日52,000円〜機体のみ・操作は自社
Unitree G1 通常版/1か月600,000円〜機体のみ・二次開発は不可
Unitree G1 デモ貸出/1日400,000円〜エンジニア・機体・搬入設置を含む。構成により変動
Unitree Go2 Pro/1日150,000円〜オペレーター同行・都内諸経費込。構成により変動
Unitree Go2 Air / Pro(販売)528,000円 / 678,000円いずれも二次開発は不可
搬送AMR・配膳ロボット要見積台数・経路・連携範囲で変動

使える補助金

中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)は補助率1/2以下。上限は従業員5名以下で200万円(賃上げ達成で300万円)、6〜20名で500万円(同750万円)、21名以上で1,000万円(同1,500万円)[4]。店舗は従業員数がそのまま上限に効きます。カタログ登録製品を販売事業者と共同で導入することが条件、中古品は対象外、3年間で労働生産性を年平均3.0%以上向上させる計画が必要です。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金、デジタル化・AI導入補助金も候補です[4]。

レンタルは補助対象外のことが多く、採択は保証されません。複数店舗にまとめて入れる計画でも、対象になるのは購入した設備だけです。要件は公募回ごとに変わるので、最新の公募要領で確認を。費用は費用相場、制度は補助金で導入へ。

08 / How to start

店舗での導入の進め方

倉庫と違って、店舗には営業時間とお客様がいます。その2つを先に織り込む順序で進めます。

1

営業時間のどちらで使うか決める

開店中か、閉店後か。閉店後なら照明・施錠・警備会社との取り決めが先に要ります。ここが決まらないと機種も経路も決まりません。

最初に決める
2

通路幅と段差を実測する

搬送AMRは平坦床が前提。最狭部の通路幅、スロープ、エレベーター、什器の張り出し、荷受けのドック段差を測ります。

段差は原則不可
3

お客様動線と交差させない

カート・ベビーカー・車椅子と交わる経路は避けます。バックヤードと閉店後の売場から始めるのが最も事故の少ない順序です。

バックヤードから
4

1店舗でレンタル検証してから買う

実額と空いた作業時間を測ってから購入や補助金申請へ。やり方はPoCの進め方、つまずき方は失敗パターンに。

買う前に試す
5

多店舗展開は図面の一致度で判断

通路幅・段差・タグ整備が揃っている店から順に広げます。図面が違えば同じ機種でも結果は変わります。

揃っている店から

1店舗で成立した構成でも、隣の店は通路幅も什器も違います。「同じ図面か」で広げる順番を決めるのが、多店舗展開でいちばん外れにくい判断基準です[3]。全体像は導入ガイド、総論はフィジャーズ トップへ。

FAQ

よくある質問

店舗でロボットに何を任せられますか?

バックヤードや館内の商品搬送(AMR)が実用段階(◎)です。夜間の棚卸し・在庫点検と、受付・案内・呼び込みは条件付き可(○)。国内595件の分析でも小売の実運用比率は59.4%、業務別では搬送が73.3%と最も進んでいます。

品出しや陳列は自動化できますか?

いまは研究段階(△)です。同じ棚に形も重さも包装も違う商品が並び、フェイス揃え・先入れ先出し・潰れやすい物の判断が要ります。汎用の把持そのものが未成熟で、能力DBでも「多品種の器用な把持」は△のままです。

レジや会計はロボットにできますか?

できません(×)。アームでレジを打つのは現実的ではなく、会計の省人化はセルフレジやスマート決済という別系統の技術の領域です。ロボットは「運ぶ・見回る・案内する」で店舗を支えるもの、と考えるのが正確です。

営業中の売場で走らせても大丈夫ですか?

通路幅・段差・お客様動線の3点を実測してからです。カート・ベビーカー・車椅子と交差する売場は、まずバックヤードから始めるのが安全。閉店後に動かす場合は、照明・施錠・警備会社との取り決めを先に決めます。

棚卸しをロボットに任せられますか?

条件付き可(○)です。棚間の通路幅、棚番地とタグ・ラベルの整備、閉店後の施錠と充電場所が前提です。タグが整備されていない店舗では棚卸しそのものが成立しません。四足歩行ロボットの実運用比率は11.1%で、条件設計が結果を分けます。

いくらから試せますか?

小型ヒューマノイド(Unitree G1 通常版)の機体レンタルは1泊2日 52,000円〜、1か月 600,000円〜(税別)。操作できる人が社内にいなければ、エンジニア同伴のデモ貸出が1日 400,000円〜(エンジニア・機体・搬入設置を含む/構成により変動)。四足の Go2 Pro はオペレーター同行で1日 150,000円〜。機体のみプランの場合、別途おおむね梱包配送・保険・設置レクチャーが各30,000円かかります。

補助金は使えますか?

中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)は補助率1/2以下、上限は従業員5名以下200万円(賃上げ達成で300万円)、6〜20名500万円(同750万円)、21名以上1,000万円(同1,500万円)です。店舗は従業員規模でそのまま上限が変わります。カタログ登録製品を販売事業者と共同で導入することが条件、中古品は対象外、3年で労働生産性年平均3.0%以上の計画が要ります。レンタルは対象外が多く、採択は保証されません。

出典

  1. 内閣府「人工知能基本計画」(令和8年7月14日 閣議決定)https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/aiplan_20260714.pdf
  2. 内閣官房「AIロボティクス戦略」(令和8年3月26日決定)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ai_robo/dai3/shiryo1.pdf
  3. 関東経済産業局「ロボット導入施策パッケージ 2026年5月時点版」https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/iot_robot/robot/data/robot_package.pdf
  4. 中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)https://shoryokuka.smrj.go.jp/catalog/about/
  5. Lister「フィジカルAI導入・実証トレンドレポート2026」(2026年7月)https://lister.jp/physical-ai/chaos-map/use-case/report/
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監修:齊木祐介ASI株式会社 代表取締役

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